冬場に起こりやすい高圧受変電設備の電気事故事例―電気の保安管理の基礎知識―

電気保安

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工場や商業施設、オフィスビルなど、多くの電気を必要とする事業場には高圧受変電設備(キュービクル)が設置されています。今回は高圧受電契約を結ぶ事業場に設置されているキュービクルの保安管理の概要と、冬場に起こりやすい電気事故の事例をご紹介します。

基本を押さえる!電気の契約3種類

電力会社が提供する電気は電圧によって「低圧」「高圧」「特別高圧(特高)」という3種類に分かれています。発電所でつくられた電気は数千V~20,000Vの超高電圧のため、変電所を中継して用途に合わせて降圧され、利用者のもとに届きます。
最終的に一般家庭や小規模な事業場では「低圧受電契約」に基づいて、電力会社が管理している変圧器(電柱に設置されている灰色のポリバケツのようなもの)で100Vと200Vに変圧された電気を使用します。一方、50kW以上の電気を必要とする事業場などでは「高圧受電契約」に基づいて、キュービクルに電気を引き込むケースが主流です。さらにそれよりも高い2,000kW以上の電気を必要とする事業場は「特別高圧受電契約」となります。

そもそも、キュービクルって何?

キュービクルとは「自家用電気工作物」の1つです。自家用電気工作物とは「電力会社より600Vを超える電圧で受電する電気設備」や「一定出力以上の発電設備」などをいいます。キュービクルは発電所から変電所を通して送られてくる6,600V(特別高圧受電契約の場合は20,000V)の電気を100Vや200Vに降圧する受電設備を収めた金属製の箱のこと。多くの電気を必要とする建物に個別に設置された小規模の変電所ともいえます。
屋上や駐車場の隅に設置されているのをよく目にしますが、高い電圧を敷地内に引き込む高圧・特別高圧受電契約の事業場には必要不可欠です。

キュービクルを設置する事業場がやらなければいけないこと......

自家用電気工作物は電気事業法により、設置の際に届け出などが必要です。設置者はその維持や運用に関する保安規程を定め、保安監督をする電気主任技術者を選任し、国に届け出を行い、その後の運用でも定期的な保安点検を行うことが義務付けられています。
ただし、高圧の設備では電気主任技術者を雇用できない場合には、「外部委託承認制度」を利用して、外部委託の認可を受けた会社や、個人の電気主任技術者などに保安監督を委託することができます。

特別高圧の設備では「外部選任制度」を活用する

一方で、特別高圧の設備は規模が大きいため、常駐の電気主任技術者を選任する必要があります。一般的には技術者を社員として雇用し、その業務を任せるのですが、昨今は有資格者の絶対数が少ない状況などもあり、資格をもつ社員の雇用が難しいケースも出てきています。
そんなときに活用できるのが「外部選任」という制度です。外部選任では、外部の会社に電気主任技術者を選任してもらい、その技術者が常駐して保安監督にあたります。設備の規模により第二種や三種など必要な資格が違うので、設備に合った電気主任技術者が選任されることになります。

電気主任技術者ってどんな資格?

キュービクルの保安監督を行う電気主任技術者の資格は、扱える電圧の大きさによって第一種から第三種まで3種類があります。電気主任技術者は国家資格で、資格取得のためには認定校での単位取得と実務経験による認定があり、それ以外の方法としては「一般財団法人 電気技術者試験センター」が実施する試験を受験する必要があります。
3種類のうちで最も難しいのは第一種で第二種、第三種の順に難易度は下がります。第三種は50,000ボルト未満(出力5,000キロワット以上の発電所を除く)、第二種は170,000ボルト未満の電圧を扱うことができ、第一種は規模に関係なくすべての設備を扱うことができます。
とはいえ、第三種電気主任技術者の試験でも出題の範囲は広く、合格率もここ数年は10%を下回るなど、かなりの難易度といえます。

冬場に注意が必要な電気事故

12月に入り、いよいよ寒さが本格化。ラニーニャ現象により今冬は寒さが増す可能性があるという予報も出ていますが、冬場の雪や雷などに起因するキュービクルなどの電気事故があるので注意が必要です。

雪に起因する事故

冬の電気事故は積雪に起因するものが多くみられます。積雪により倒れた木が原因となる電柱の折損・倒壊や、同じく積雪による高圧線や送電線の断線などです。構内に電線を張り巡らせた事業場ではこうしたリスクが高まります。すぐにできる対策ではありませんが、雪の多い地域では電線の地中化を検討するのも1つの方法です。
ちなみに、日本テクノの監視センターが2019年1〜3月に受信した停電通報は3,312件。このうち送電網遮断など電力会社側起因の停電は3,223件、事業場の設備起因の停電は89件でした。事業場の設備起因の停電には「吹雪でキュービクル内部に雪が堆積し停電」(北海道札幌市)、「重機で除雪作業中、高圧ケーブルを損傷し停電」(北海道札幌市)などの事例が見られました。積雪量の多い地域の事業場では注意が必要です。

日本海側では雷に注意

冬の日本海側では雷が多く発生します。冬の積乱雲は、日本海を流れる相対的に暖かい対馬海流の海面に、シベリアからの冷たい空気が流れ込むことで発生します。冬の積乱雲は夏より雲の厚みが薄いのですが、そのなかにエネルギーが凝縮されるため、強い雷が発生することも。日本海側の冬の雷は「一発雷」と呼ばれ、落雷回数は少ないながら場合によっては夏の雷の約100倍のパワーを持つこともあるので注意が必要です。
落雷対策としては「建物に避雷針を設置」、「電線や通信線からの雷電流の侵入を防ぐため、避雷器を取り付ける」などが効果的です。特にパソコンなど電子機器は雷などで起きる強い電流や高電圧に弱く、機器のなかに流れ込むとデータ消失などの被害を受けてしまいます。

IoT活用を促進する保安の新しい動き

最後に電気保安の新しい動きとして、IoTの活用促進についてご紹介します。
電気保安をめぐる状況は、人材不足への懸念や再エネ設備の増加、自然災害への備えなど、さまざまな課題を抱え、変化の時期を迎えているといえます。経済産業省では、IoTやAIといった新技術の導入などで電気設備の保安管理業務の安全性や効率性を追求する取り組みとして2020年に「スマート保安官民協議会」を設置しました。最近話題のドローンによる設備の巡視や電力データの常時監視などもスマート保安の一例です。
協議会の役割としては基本方針の策定と、それに基づく具体的なアクションプランを策定し推進すること。くわえて民間による「IoTやAIなど新技術の開発」「スマート保安を支える人材の育成」。さらに国による規制や制度の見直し、民間活動の支援、情報発信や普及活動。これら三つ巴の対策が動き始めています。

電気設備の保安管理は、電気を使う事業者だけでなくすべての人々の生活基盤につながるものです。一年の締めくくりの月に入りました。あらためて電気保安について振り返り、自社の設備を見直してみてはいかがでしょうか。

参考WEBサイトやメディア

テッくんQ&A(62号)、保安特集(64号、66号)、スマート保安(62号、61号)
冬の電気事故(58号)

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