「今月のことば」...最近話題の環境・エコ・省エネに関することばを解説します。
2021年10月、経済産業省より第6次エネルギー基本計画が閣議決定したと発表がありました。
そもそもエネルギー基本計画とはどのようなものなのでしょうか。最近、新聞やネットなどで洋上風力発電や水素エネルギーといった再生可能エネルギー(再エネ)関連の話題をよく目にしますが、実はこれらの話題もエネルギー基本計画と深く関係するものが多いのです。そこで今回は、エネルギー基本計画の位置づけや、第6次計画の具体的な内容、また目標達成に向けた動きなどをご紹介します。
そもそも「エネルギー基本計画」って?
エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づいて政府が策定しているものです。2002年に同法が施行され、2003年に最初の計画が策定されました。以後、3~4年ごとに改定が行われ、2021年10月に第6次計画が策定されました。
資源に乏しい日本のエネルギー政策には、「S(安全性)+3つのE(エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境への適合)」が重要だと言われています。しかしひとつのエネルギー源でこの条件を満たすことは難しく、国際情勢などを考慮しながら、さまざまなエネルギー源を組み合わせて、「S+3E」を満たすような調達手段が立てられています。
エネルギーをめぐる世界情勢は日々変化しています。気候変動問題への関心の高まり、新型コロナウイルス感染症の拡大など、わたしたちの生活環境も同様に変わっていきます。そうしたなかで、基本計画も検討を加え、必要に応じて3~4年ごとに変更(改定)されています。
第6次計画の方針は?
最新版となる第6次計画はどのような内容になっているのでしょうか。2021年は東日本大震災から10年の節目の年でした。第6次計画においても、これまでと同様、「S+3E」の視点を重視したうえで、「東京電力福島第一原子力発電所事故からの福島復興を着実に進めていくこと」、また「エネルギー政策はいかなる事情よりも安全性を最優先すること」が大前提となりました。
これを踏まえて第6次計画の方針として以下の2つが掲げられました。
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1.「2050年カーボンニュートラル」を見据えたうえで、2030年の温室効果ガス排出削減目標(2013年から46%削減)の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示すこと
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2.気候変動対策を進めながら、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服に向け、安全性の確保を大前提に安定供給の確保やエネルギーコストの低減に向けた取組を示すこと
第6次計画の具体的目標(2030年度の電源構成)
第6次計画における2030年度の電源構成目標を具体的に見ていきます。2030年度は、温室効果ガスの排出量を2013年度時点から46%削減することが掲げられています。加えて50%の高みに向けて挑戦を続けることも表明されました。
電源構成は、再エネの比率が36~38%(2018年の第5次目標は22~24%)、原子力が20~22%(同20~22%)。そのほかLNG火力が20%程度、石炭火力が19%程度、石油火力などが2%程度。さらに今後の重要なエネルギー源として期待される水素・アンモニアによる発電が1%程度となります。
電源構成に占める再エネと原子力を合わせた非化石エネルギーの割合は2019年度実績で約24%でしたが、今回の計画はこれを2030年度に60%程度まで引き上げるというもの。つまり再エネを拡大し、「主力電源化」していこうというのが国の方針です。
再エネの目標内訳を細かくみると、太陽光が14~16%、風力が5%、地熱が1%、水力が11%、バイオマスが5%です。また化石燃料を使用するLNG・石炭などの火力発電は現状の76%から41%と大きく引き下げられています。出力の不安定な再エネを補える容量が確保できるようにしながらも、できる限り比率を下げていく内容となっています。
達成に向けての動き
第6次計画の達成に向けては、再エネの主力電源化とともに、わたしたち需要サイドの徹底した省エネ対策も必要と言われています。省エネ対策としては産業部門における省エネ技術開発と政府による導入支援の強化、業務・家庭部門では2030年度以降に新築される住宅・建築物についてZEH・ZEB基準を水準とする省エネルギー性能の確保などが計画されています。
再エネの主力電源化については、適地確保による再エネ導入拡大、送電網の整備や利用ルールの見直し、設置に関わる規制緩和、次世代太陽電池などの技術開発といった取り組みが進められています。
さらに大きな動きとして注目されるのが、政府の進める総額2兆円の「グリーンイノベーション基金事業」です。グリーンイノベーション基金とは、政府が2020年12月にグリーン成長戦略で示したエネルギー関連産業などを対象に研究開発から社会実装までを継続的に支援する事業のこと。経済産業省が分野ごとの計画を策定し、それぞれに応じたプロジェクトを企業などから公募します。
グリーンイノベーション基金事業-第1号は水素関連の実証
2021年8月にスタートした第1号の案件は水素に関する実証研究事業で余剰な再エネを利用した製造など水素の社会実装に必要な技術を確立していくものです。国費負担の上限は総額3700億円にものぼります。
続くプロジェクトも公募や採択が進んでいます。「次世代型太陽電池の開発」ではビルの壁面に設置できるような軽量薄型の開発に取り組み2030年までの市場形成を目指します。「洋上風力発電の低コスト化」では日本やアジアの海域の自然条件に合わせた浮体技術の開発や実証が進められています。
今回のエネルギー基本計画は非常に野心的な目標であり、まだまだ課題も多くありますが、国をあげた大規模な投資による革新がどんな結果につながっていくのか、また私たちの生活にどのような変化をもたらすのか、今後も注目していきたいですね。
【トピックス】注目の次世代エネルギー:水素エネルギー
地球温暖化を止めるためには、化石燃料の消費を減らし、温室効果ガスの排出を抑える必要があります。現在、太陽光や風力といった再エネによる発電が急速に普及しているのは、発電時に温室効果ガスが発生しないためです。そうした次世代エネルギーとして近年注目されているのが水素エネルギーです。
発電の原理は火力発電とまったく同じで、水素を燃焼させたエネルギーでタービンを回し、電気エネルギーを取り出すというものです。「燃焼(燃やす)」というと、言葉のイメージとして、温室効果ガスの一種である二酸化炭素が発生するのでは?と思う人もいるかもしれませんが、水素ガスには炭素(C)は含まれないので、二酸化炭素(CO2)にはなりません。
このように仕組みだけを見れば単純ですが、燃料となる水素が「単体では自然界にほとんど存在しない」という点がネックになります。水素は地球上で最も多く存在する物質ですが、基本的には水や化石燃料や有機化合物など他の原子と結びついて存在しています。このため水素自体を取り出すには水素を含む物質を分解する必要があります。
水素発電を普及させるためにはこういった水素の原料となる素材の調達にくわえ、製造・液化・輸送・保管といったインフラの整備も必要なため、現在の主流な発電方法と比較してコストが高くなってしまうのです。
水素エネルギーの詳しい紹介はこちらをご覧ください。