「今月のことば」...最近話題の環境・エコ・省エネに関することばを解説します。
新米をはじめ、さつまいも、かぼちゃ、マツタケ、秋鮭......。さまざまな秋の味覚が旬を迎えていますが、10月は国の提唱する「食品ロス削減月間」です。食品ロスは食品だけの問題にとどまらず、地球温暖化などさまざまな事象につながる課題です。
食品ロス削減推進法と食品ロス削減月間
食品ロスとは、まだ食べられるのに廃棄される食品のことをいいます。環境省によると、日本の2018年度における「食品ロス量」は、事業者から出るものが324万トン、家庭からは276万トン。合計すると年間約600万トンの食品が、まだ食べられるにもかかわらず廃棄されているということになります。これは、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた食料援助量(2019年、420万トン)の約1.4倍に匹敵します。栄養不足の人々が世界に多数存在するなかで、多くの食料を輸入している日本にとって、食品ロスの削減は大切な課題です。政府はこうした現状を受けて、2030年度までに2000年度比で食品ロスを半分に減らす目標を掲げています。
こうした状況を受け、2019年5月、「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称 食品ロス削減推進法)が国会で成立し、10月1日に施行されました。
法律は食品ロスの削減に関し、国や地方公共団体などの責務を明らかにするとともに、基本方針の策定と、その他食品ロスの削減に関する施策の基本となる事項を定め、食品ロスの削減を総合的に推進します。また、国民一人ひとりが食べ物をムダにしない意識の醸成と定着を図ること、そしてまだ食べることができる食品についてはできるだけ食品として活用することが明記されています。
なお、食品ロスの削減に関する理解と関心を深めるため、10月1日からの1ヵ月間を「食品ロス削減月間」として教育・学習の振興、知識の普及・啓発などを実施しています。
食品ロスから派生する諸問題
食品ロスは、食品だけの問題ではなく、地球温暖化の問題とも関連します。その関係を見ていきましょう。
食品が私たちの口に入るまでにいくつもの過程があります。「食品を作る(収穫する)」ことに始まり、「保管する」、「加工する」、「運搬する」、「販売する」、そして「消費する」という流れです。さらに消費しきれなかった食品は「廃棄」されますが、これらすべての過程で電気やガスなどのエネルギーを消費し、それがCO2などを排出し、温暖化につながります。
具体的には、下記のようなエネルギー消費の要因があります。
- 食品を作る(収穫する)
- 農業用機械の利用によりエネルギーを消費する
- 保管する
- 冷蔵庫・冷凍庫の利用によるエネルギー消費
- 加工する
- 加工機器を稼働する、熱処理をするためのエネルギー消費
- 運搬する
- 輸送時にエネルギーを消費する
- 販売する
- 店舗運営でエネルギーを消費する
- 消費する
- 加熱調理する
- 廃棄する
- 焼却などの処理を行う
食品ロスと、食品に関わる人々の関係も見てみましょう。米づくりを例にとると、米は春に種籾から苗を育て、それを水田に植え、雑草の繁殖を抑えながら、稲の生育状況に合わせて水の量を調整していき、秋に収穫して脱穀・精米し、やっとお米になります。そのお米も先ほど紹介したような過程を経て私たちの口に入ります。農家をはじめ卸売、小売などさまざまな人が関わり、最終的に私たちの手元に届くのです。
昨今は食の安全が注目されており、安全なお米を届けるために農家はつくり方を工夫したり残留農薬がないか検査をしたりと、以前よりも手間をかけています。よく「手塩にかけて育てる」といいますが、食品ロスを出すということは、そうした農家をはじめ、お米の流通に関わった皆さんの「手塩」がムダになるということなのです。
さまざまな団体が取り組む食品ロス削減
では実際に私たちは食品ロス削減に向けてどんな対策が考えられるでしょうか。参考となる取り組みをいくつかご紹介します。
政府も後押しする「フードバンク活動」
フードバンクとは、安全に食べられるのに包装の破損や印字ミス、過剰在庫などの理由で、流通させることができない食品を企業などから寄付してもらい、必要としている施設や団体、家庭に無償で提供する活動です。NPOなどが中心となり、全国で100以上の団体が活動を行っています。企業側としてもESG対策の一環として、フードバンクを活用する企業が増加してきました。
コンビニのローソンは店舗への納品期限を過ぎたお菓子や即席麺、缶詰などを中心にフードバンクへの寄付を行っています。また外食産業でもデニーズやモスバーガーなどが取り組んでいます。2018年12月には国税庁が、税務上フードバンクへの寄付は法人税の控除対象になると公表しました。寄付は一定額まで損金として扱えるようになったため、寄付をしやすい環境になったといえます。
2020年にはコロナ禍で影響を受ける生活困窮者や子ども食堂などへの食品提供を拡大するために、農林水産省によるフードバンクの支援事業が立ち上がり、フードバンク活動に関わる運搬用車両や保管用倉庫の賃借料補助が行われています。
気象データで商品需要予測
一般財団法人日本気象協会では、天気予報で培った最先端の解析技術で企業の生産量の調整や小売店での仕入見込みをサポートする「商品の需要予測」サービスを提供しています。季節商品を取り扱う食品メーカーはもちろん、アパレルメーカーなどが在庫管理に活用しています。
メーカー独自の活動も
個々の食品メーカーでもロス削減に向け、さまざまに取り組んでいます。消費者庁のウェブサイトには企業をはじめ自治体や学生が取り組む削減事例が多数掲載されています。
たとえばキユーピー株式会社では、主力商品のマヨネーズ製造において、製法や包装容器の改良で従来10ヵ月だった賞味期限を12ヵ月まで伸ばしました。
森永乳業株式会社では、無菌環境下での充填・包装によるロングライフ製法を開発することで、牛乳などの飲料製品が、保存料や防腐剤を使わずに常温で60日間保存できるようになりました。
今、食育が必要な理由
最後に食品ロス削減の推進に寄与する「食育」について紹介します。
2005年、国民に食事の重要性を意識してもらうための食育基本法が制定されました。そしてこれを推進するために毎月19日が「食育の日」と設定されました。ここで掲げられた食育の位置づけは以下の2つです。
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生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるべきもの
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さまざまな経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てること
こう聞くと「食育」は子ども向けの教育のようにも思えますが、実際には私たちの暮らしや企業活動にも深く関係してきます。現代の人々は食生活に関して以下の問題を抱えているといわれています。
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①「食」を大切にする心の欠如
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②栄養バランスの偏った食事や不規則な食事の増加
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③肥満や生活習慣病(がん、糖尿病など)の増加
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④過度の痩身志向
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⑤「食」の安全上の問題の発生
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⑥「食」の海外への依存
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⑦伝統ある食文化の喪失
こうした問題について理解し、食のあり方について考えることも「食育」の1つです。企業の食育推進事例をいくつかご紹介します。
インターネット事業のヤフー株式会社では、本社に社員食堂を設置し、無料で朝食を提供するなど、朝食の欠食改善や食事バランスの改善を進めています。昼食では肉類の揚げ物に「揚げ物税」と称し100円値上げする一方で、魚料理を150円値下げし、魚の喫食率を上げるなど、独自の取り組みを進めています。
食品メーカーのカルビー株式会社では、主力商品であるスナック菓子について、小学校などへの出張授業を通じてバランスを守った適切な食べ方を指導しています。「スナック菓子=体に悪いもの」というイメージの脱却を目的に始まった同社の取り組みですが、2019年12月時点で累計9,000校、参加した児童や保護者の数は累計68万人に上ります。
食育の活動自体が自社商品・サービスの売上に直結するものではないかもしれませんが、カルビーの取り組みはお客さまとの継続的関係の深化・進化を推進するものといえます。
以上、食品ロス削減への取り組みは、食品に関わる企業はもちろんのこと、国民一人ひとりに関わる問題です。おいしい食材の揃うこの季節だからこそ、食の恵みに感謝して、あらためて「食品ロス削減」についても考えてみてはいかがでしょうか。