「今月のことば」...最近話題の環境・エコ・省エネに関することばを解説します。
2022年4月1日に「プラスチック資源循環促進法」が施行されました。
これまで何気なく使ってきたプラスチックのスプーンやフォーク、レジ袋などですが、2020年のレジ袋有料化に始まり、最近ではコーヒーショップなどでも紙製のストローが使われるなど、少しずつ変化が見られます。
本法律の概要や施行の背景についてご紹介します。
プラスチック資源をめぐる地球環境問題
まずは、本法施行の背景です。近年、地球規模でプラスチックごみの問題が大きく取り上げられるようになりました。
プラスチックは軽量で取り扱いやすい素材のため、さまざまな場面で利用されてきました。一方で、適切に処理しないと自然分解されず、そのままのかたちで残ることが多いものです。そのため景観の悪化や環境汚染につながるだけでなく、海洋生物に危害を及ぼしたり、生態系を回って人体の健康被害などを引き起こしたりする可能性もあるのです。
ここで「省エネの達人 企業編」のコラムで取り上げた海洋プラスチックごみ問題についてご紹介します。
太平洋ごみベルトとは、主にアメリカ大陸とハワイ諸島の間に形成された海洋上のごみの塊のことをいいます。世界には海上風や潮流の影響で、ごみが集まりやすい海域がいくつかありますが、その1つが太平洋ごみベルトです。90%以上をプラスチックごみが占めており、総面積は約160万キロ平方メートル。日本の総面積が約38万平方キロメートルですから、その4倍以上のごみの塊がいまも太平洋上を漂っているのです。
「省エネの達人 企業編」のコラムにはほかにも記事が掲載されていますので、こちらもご覧ください。
プラスチック資源循環促進法とは
上記のようにプラスチックは使い勝手がよく便利な素材ではありますが、不適切な処理によって海洋汚染問題につながるほか、焼却の際にCO2が排出され気候変動問題の要因にもなっています。
こうした背景を受けて、2022年4月1日に「プラスチック資源循環促進法」が施行されました。この法律は、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」の略で、プラスチック製品の「設計」から使用後に廃棄物として「処理」されるまで、プラスチック製品のライフサイクルの各段階で資源循環などの取り組みを促進するための法律です。
もともと日本では1997年に「容器包装リサイクル法」という法律が施行されていました。これは容器ごみの減量を図り、再利用につなげるための法律で、消費者が分別排出、市町村が分別収集、事業者が再商品化(リサイクル)するという役割分担を定めたものでした。
今回の法律は、包装容器だけでなく広くプラスチック製品を対象としています。なかでも、これまで商品の販売に付随して消費者に無償で提供されてきたワンウェイプラスチックと呼ばれるプラスチック製品の扱いが注目されています。
「プラスチック資源循環促進法」の対象となる12種類の特定プラスチック使用製品(ワンウェイプラスチック)
フォーク、スプーン、テーブルナイフ、マドラー、飲料用ストロー、ヘアブラシ、くし、かみそり、シャワーキャップ、歯ブラシ、衣類用ハンガー、衣類用カバー
事業者、消費者、国、それぞれの役割
本法は、「3R+Renewable」が基本原則です。
Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の「3R」に加え、リニューアブル(再生可能資源に替える)を推進することが掲げられています。
そのためにプラスチック製品の「設計」から廃棄物として「処理」されるまでの間にかかわるすべての「事業者」、「消費者」、そして「国」や「地方自治体」などの関係主体がそれぞれ連携しながら環境整備を進める必要があります。
国の取り組み
本法の施行を前に、政府では2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」を策定しました。ここで重点戦略として3R+Renewableの基本原則と、6つのマイルストーン(中間目標)が掲げられました。
具体的には、「プラスチック使用製品設計指針」と「認定制度」が策定され、プラスチック製品にかかわる事業者が取り組むべき事項や配慮すべき事項を定めました。
また、事業者が指針に則した製品設計をすると、そのなかでも特に優れた設計は認定を受けることができ、国の支援対象となります。
事業者としてできること
ここでいう事業者とは、プラスチック製品の設計者だけでなく、店舗などでプラスチックを販売する事業者まで幅広い事業者が対象となります。具体的な取り組みとしては、下記のような事項が掲げられています。
プラスチック使用製品設計指針に基づく取り組み
政府の策定したプラスチック使用製品設計指針に基づき、事業者にはプラスチック製品の設計にあたって製品を減量化して使用する材料を少なくすることや、大きさや形状を見直して収集・運搬を容易化すること、バイオプラスチックやプラスチック以外の材料の利用検討などが求められています。
製造・販売事業者などによる自主回収・再資源化
製造・販売事業者などは「自主回収・再資源化事業計画」を作成し、これが国の認定を受けた場合には、廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)に基づく許可がなくても、使用済のプラスチック製品を自主回収・再資源化できるようになりました。
特定プラスチック使用製品提供事業者が取り組むべきこと
先に紹介した特定プラスチック使用製品を提供する飲食店や宿泊業、クリーニング店などの業種では、使用の合理化に取り組むことが求められています。具体的には、プラスチック製品の有償提供や、使用しない場合のポイント還元、消費者に使用の有無を確認すること、などがあげられています。
さらに前年度に特定プラスチック使用製品を5t以上提供した事業者については、合理化の取り組みが著しく不十分な場合には、国から勧告・公表・命令が行われる場合があります。
消費者サイドの取り組み
これまで当たり前に使ってきたプラスチック製品ですが、まずは消費者一人ひとりが過剰に使用しないよう心がけ、ライフスタイルの変革に取り組んでいくことが必要です。
たとえば、
-
プラスチック製品は必要な分だけもらう
-
繰り返し使用できる製品を選んで使用する
などがあげられるでしょう。
地方自治体の取り組み
プラスチック製の容器包装については分別収集、再商品化が進められてきましたが、それ以外のプラスチック製品は、燃えるごみなどとして処理される地域が多くありました。同じプラスチック素材であるにもかかわらず、別々に収集されるというわかりにくい状況だったのです。
そこで今回の法律では、わかりやすい分別ルールの策定を通じてプラスチック資源回収量の拡大を図ることをめざしています。
市区町村でプラスチック製品廃棄物の分別の基準を策定し、その基準に従って適正に分別して排出できるよう住民に周知することが求められています。
なお、環境省の調べによると、プラスチックごみの削減に向けた取り組みを宣言している自治体は2021年11月時点で39都道府県を含む166自治体あります。環境省のモデル事業(平成29年度)として横浜市や大阪市、名古屋市などの大都市でプラスチック資源一括回収実証事業なども進められています。
プラスチック製品について現状を理解し、事業者として、また個人として何ができるのか、一人ひとりが考え、行動に移すことが大きな変革の一歩となります。未来の地球のため、私たちの生活を守るためにも取り組んでいきたいですね。
注目トピックス
持続可能なプラスチック・バイオプラスチックとは?
石油などの化石資源を主な原料とするこれまでのプラスチックにかわり、バイオプラスチックの利用が注目されています。
バイオプラスチックとは、植物など再生可能な有機資源を原料とする「バイオマスプラスチック」と、微生物などの働きで最終的に二酸化炭素と水に分解する「生分解性プラスチック」の総称です。
バイオマスプラスチックの原料としてサトウキビやトウモロコシなどの糖や油脂などがあげられます。こうした原料を使用することで、石油をはじめとする枯渇性資源の使用を削減できることがメリットです。
また、バイオマスプラスチックも焼却の際に二酸化炭素を排出しますが、その二酸化炭素は植物が成長過程に光合成により吸収したものであるため、大気中の二酸化炭素の量は増加しません。つまり「カーボンニュートラル」というわけです。
生分解性プラスチックにもメリットがあります。
本来、プラスチックは使用後に自然環境へ流出させてはいけないものですが、意図せず海などの自然環境へ流出してしまうおそれがあることも事実です。生分解性プラスチックを使用することで、流出した場合にも比較的短時間で分解され、長期間自然環境に残留することを防ぐことができます。
たとえば、生分解性プラスチックの袋で生ごみを回収したら、袋ごと堆肥化などの処置を進めることができるのです。回収段階では衛生的にごみを出すことができ、処理段階では手間を省くことができコスト削減につながります。